「第1回TRMM国際科学会議」報告
初のTRMM International Science Conferenceが 2002年7月22-26日にホノルルで開かれました。 その感想やメモの幾つかを紹介させていただきます。 詳しい会議報告は「天気」2003年5月号を参照してください。運営状況:朝食代わりのパンやコーヒー、ヨーグルトの準備、肩 の力を抜いた議論を促進させるポスターセッション会 場でのフルーツやケーキの準備は評判が良かった。大 会記念品についてはペンや食事割引券などいろいろあ ったが、なかでも立派な手提げカバンが話題となった。 会場はハイアットリージェンシーホテルの脇にある会 議施設であったが、これだけ会議進行がスムーズに行 われたにも関わらず、事前にこの場所の連絡が無かっ たことに疑問を感じるものもいた。5日に渡り200件 もの発表が行われた本会議は、8時半から17時半まで という日程が主であった。併せて行われた会議も幾つ かあり、関係者は時差の影響もあって夜遅くまでくた くたの様子であったが、同じ条件でアメリカから来た 研究者は非常にタフである印象を受けたと聞いた。メ インの国際科学会議参加者の数は、1日目の午前中が もっとも多く、次第に減少し、3日目のルアウ(懇親 会)以降はそれぞれの都合や予算上の問題で帰国する 方が多くいたこともあり、ぐっと少なくなっていた。 しかし全体を通じて席の大部分が埋まっていたのは、 午前午後ともにポスターセッション後に必ず口頭発表 を入れて「帰ったらばれる」作戦が功を奏したためで あろう。またポスターセッションから次のセッション へと滑らかに移るために、ポスターセッション会場の 照明をほわんほわんと点滅させて終了を促す妙技が披 露された。これは白熱した議論に対して笑みを持って ピリオドを打つ効果抜群であり、幾人かの参加者がこ の絶妙なテクニックをメモ書きしていた。ポスターは ひとつ置きにアルファベット順に並べられ、会場は広 く余裕があった。![]() 発表風景 (photo by Sato) 研究発表:多くの研究者はTRMMデータがもたらしうる成果に幅 の広い価値を感じている。潜熱推定にしても、降水精 度向上にしても、お互いの強みを持ち合って融合させ ていこうという有機的な姿勢が見られた。モンスーン や全球降水分布といった降水に関わる多くの研究者が TRMMユーザーとして集まっていたことは刺激的であ り、研究が生きたものであることを感じさせる貴重な 機会となった。様々な発表の中で私が特に興味深く聞 かせてもらったのは、3次元構造の観測がもたらした 新しい降水気候学の試みであった。ヒマラヤの跳ね水 現象、山岳性降雨、チベットやアフリカ、オーストラ リアなど(semi-)arid地域の降雨の事例解析、 RandoniaやAmazonの森林破壊域におけるメソスケー ルの循環、各種キャンペーン実験結果の比較・総括、 熱源推定アルゴリズムによる種々の降水レジームの熱 的表現、など数々の地域研究・比較研究の進展、表現 しうるパラメータの充実を感じた。また降水の3次元 構造の把握という視点が展開させた降水システムの種 類やそこに含まれる粒径分布の理解、Q1Q2などに絡め られる熱源プロファイルの推定などなど、生産的な興 味深い応用(基礎)研究の成果が多く挙げられていた。降水の地域研究(Field Experiment等)の例 交流:本滞在ではうずく放浪癖を抑え、研究者の皆さん(別 所さん他)との時間を中心として楽しく過ごさせてい ただいた。高校の大先輩・すみ先生を始めとした参加 者の皆さんから(ハワイの海を背景として)受けた刺 激は大きい。また降雨の鉛直構造について研究をされ ていたLiuや、Courtney Schumacher達に自分の研究 をじっくり話せる時間を持てたことが嬉しい。ところ でCourtneyの熱心なロビー活動は驚きであった。ほ とんどの昼ご飯を近所のサンドウィッチ屋で済ませ、 休み時間をフル活用してかなりの数の研究者と会話、 つまり就職活動をしていた。またポスター会場で、発 表でつまずいた部分についてボス(Houze)に発表の何 たるかについて説かれ、言い返し、玉砕していた様子 が暖かく記憶に残る。彼女は変わらず魅力ある先輩で あり、今後も道を交差させたい仲間に思う。反省事項:個人的な反省だが、英語を聞き取るということに依然 困難を感じる。多くの研究者に聞いてみると、完全に 分かることは困難、経験が次第に効いてくる、しかし 自然に上達するわけではない、努力を続けなさい、と いう声をいただいた。日本から来ていた若い研究者の ほとんど全てが海外経験があったり、またこれから行 く予定であるだけに生々しい意見が聞けた。まずでき ることは研究のバックグラウンドを知ること、それで かなり理解が異なると思われる。併せて意識的に関わ りあいを持つことがひとり行動の多い私にとっては課 題である。![]() 懇親会の様子(at the Royal Hawaiian) 幾つかのキーワード(メモより)○ 全球降水分布と気候学・Houze and Schumacher: 層状性降雨の占有率は熱 源分布に深く関わりを持ち、風のvertical tiltを生 む。PRの降水タイプ識別が結果に重要なインパクトを 持つ。今後はSST等のパラメータとの関連を探り、気 候学的特徴の意味付けを深める。 ・Tao: 潜熱推定という分野の総括と見通しを述べた。 各アルゴリズムの強みと弱みのテーブルを提示。El NinoとLa Ninaという2種類のレジームの潜熱分布に 与える影響の違いを示した。比較と融合という、統一 的なプロダクトへの姿勢を打ち出した。 ・Huffman: 3時間降水量プロダクトの現況(TRMMや静 止軌道衛星を含めた複数の衛星観測値を用いた Real-timeの降水推定)の紹介。TRMMはGPCPの検証と して使える、TMIや他の衛星データが3時間降水分布 プロダクトの基となり得る、対流性降雨の割合や熱源 プロファイルなども今後考慮したい、等の成果と期待 が述べられた。 ○ 視覚的表現 ・Cyclonesの3次元構造の可視化を幾つかのパラメー タで立体図示、また水平・鉛直断面で表現した。その パラメータとは、赤外輝度温度, PRによる30dBZ等高 線、ドロップゾンデによる7.5Kの正偏差、TMI(85GHz) による氷のmoderate(200K)な散乱、TRMMによる潜熱 加熱効果、QuickSCATによる風分布などである。生ナ レーション付きのNASA製ビデオにより、熱源分布を含 めた立体的特徴を分かりやすくドラマチックに可視化 していた。 ○ 物理検証 ・Wilheit: TMIによる海の雨を検証する適当なGround Truthがこれまで無い。モデルでエラー要因の効果を 調べることを今後の検証(Physical Validation)と する。主要なエラーはその機器のFOVにおける降雨の 非一様性、つまりbeam-filling errorであり、KWAJEX やTOGA-COAREで航空機搭載レーダを用いた結果によ ると少なくとも熱帯ではその効果は安定していること が分かった。 ○ 広域に渡る地域的特徴、降水レジーム ・Negri: ランドニアにおいて、森林域では低いアルベ ド、高い粗度、深いroots、低いボーエン比、浅い境 界層、高い湿潤静的エネルギーが観測され、森林破壊 域では逆であった. ・Satoh: オクラホマで観測されたスコールライン、梅 雨、台風、浅い対流、等の異なる降水レジームについ て熱源分布の立体的表現を試みた。雲解像モデルや観 測データによる検証が今後の課題。 ・Johnsonが示した降雨イベント(MCSなど)の形に 関するorganizational modeの発展版が面白いと好評 であった。 文責‥広瀬 正史 |