要旨

猪飼 純二

熱帯降雨観測衛星(TRMM)に搭載されているマイクロ波放射計(TMI)と降水レーダ(PR)により見積もられる地表面付近降雨強度の比較を行い、TMIが精度良く推定できる海上に注目し、その不一致の要因を考察した。3ヶ月平均値の傾向として熱帯地域や夏半球中緯度でTMIの過剰な見積り、冬半球中緯度では逆にTMIが過少に見積もる傾向が緯度方向に系統的な変化をもって認められた。これらの要因を同定するため、事例解析から、地表面付近降雨強度、TMIの10GHzチャンネルの輝度温度(TMI-10GHz-BT)とPRの総降雨減衰量(PIA)を比較した。その結果、地表面付近の降水強度推定の不一致につながる3つの傾向が確認された。
第一に、地表面付近降雨強度は熱帯・夏半球中緯度とは逆に冬半球中緯度の事例ではTMIの過少見積もりとなる傾向が見られた。これは、降雨鉛直プロファイル、TMIの0°C高度(TMI-FH)とPRのブライトバンド高度(PR-BBH)の比較により、冬半球中緯度においてTMIが0°C高度を非常に高く誤って見積もるためであることが分かった。
第二に、PRアルゴリズムが定義する対流性降雨域において、PRの地表面付近降雨強度が過剰に見積もられる傾向が確認できた。これは、PRアルゴリズムで降雨タイプに応じて使用されるレーダ反射因子と降雨強度(Z-R)、減衰係数とレーダ反射因子(k-Z)の関係が適切でないためと考えられる。
第三に、対流性降雨でPR-BBHが低くかつPIAが大きいとき、PR降雨強度の過剰な見積りが見出された。これは、対流性降雨に対するPRアルゴリズムの降水粒子鉛直プロファイル仮定の不正確さに起因すると考えられる。以上の三つの傾向を反映する3ヶ月平均のTMI-FH/PR-BBHとPRの総降雨量と対流性降雨量の比の全球図からPR-rain/TMI-rainの分布を説明することができた。

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